洋楽が買えなくなる!?レコード輸入権の問題点がわかってきた【ロフトプラスワン報告】
「選択肢を保護しよう!! 著作権法改正でCDの輸入が規制される? 実態を知るためのシンポジウム」というシンポジウムがロフトプラスワンで開かれました。「洋楽の海外盤を買えなくなる!?」とも言われている今回の著作権法改正、実際のところ、何がどのように具体的に問題なのか、今までよくわかりませんでしたが、このシンポジウムでわかってきたように思います。
というわけで、私が理解したことを、私が理解したようにまとめてみました。事実誤認とかあれば適宜修正します。
期日:5月4日(火曜日祝日)午後1~3時
場所:新宿ロフトプラスワン
司会進行:ピーター・バラカン
パネラー:
民主党 川内博史衆議院議員
音楽評論家/HEADZ代表 佐々木敦氏
輸入盤ディストリビューター、リバーブ 石川真一氏
イースト・ワークス・エンタテインメント 高見一樹氏
音楽家 中原昌也氏
ビルボード誌日本支局 スティーヴ・マックルーア氏
「REMIX」誌スーパーバイザー 野田努氏
音楽評論家 高橋健太郎氏
発起人:ピーター・バラカン、高橋健太郎
協力:藤川毅
参加者が多そうだという事前の情報を発見したので早めに行きましたが、すでに椅子は埋まっていました。180人定員に350人入って、さらに入れない人もいたとか。音楽ファンの関心の高さがうかがえます。右手奥立ち見最前列でメモ+写真に励みました。
今回のレポートは、音声で生中継されましたし(450人もアクセスしていたらしい!)、動画も配信されるようなので、発言者のコメントを順番に追うのではなく、内容のまとめに徹したいと思います。今回の収穫は、具体的にどういうことが起こるのかがわかってきたことだと思います。そして、これをできるだけわかりやすく、多くの人に伝えることが「自分に今できること」だと思います。
何がどうなってて、どうなるの?
今回の著作権法改正って、何をどう変えるの?
-
名目上の目的は「邦楽の還流禁止」
-
邦楽の日本版CDと同じものが、海外で現地版として作られている。洋楽の日本版というのがよく出ているけど、それと逆の立場になってると思ってもらえればいい。これは海賊版じゃなくて、正規版です。
-
特にアジアの現地版は日本版よりかなり安いのが相場。そのため、海外版が大量に入ってくる(=「還流」する)と、高い日本版が売れなくなる。
-
そこで、還流を防ぐため、著作権法で「輸入権」というものを設定しようという話。
-
参議院で「海賊版を防ぐため」と説明されて、議員さんは納得してしまった。
-
海賊版対策は結構だけど、上の名目とちょっと違うよね。還流CDはもともと海賊版じゃありません。
-
海賊版:ライセンスなく作られて販売されるもの。つまり不正コピー。
-
還流:モノ自体は現地で作られた正規版です。
-
「邦楽の還流防止」だけのはずが「洋楽輸入制限」できる仕組みになっていた
-
たとえば、日本版と海外版の同時発売だったとする。その場合、「日本版が出ているから海外版も輸入禁止!」ということが可能になってしまうのだ。
-
プレミアやボーナストラックがついていても別のCDとは見なされない。つまり、海外版を買えなくなってしまう!
-
つまり……日本盤があるとき、海外盤はぜんぶ輸入禁止できるという条項なのだ。
現状はどうなっているの?
-
輸入盤には2種類のルートがある。
-
発行しているメジャーレーベル自身(の日本法人)が輸入して販売。
-
それとは別の業者が輸入して販売(=いわゆる「並行輸入」)
-
実数は?
-
日本国内でプレスされる洋楽=7000万枚
-
海外から輸入される洋盤=6000万枚(海賊版じゃなくて正規版!)
-
うちメジャーレーベル輸入が約4割
-
各ディストリビューター輸入が約6割
-
邦楽は年間1億7000万枚
-
この「わずか68万枚」のために、副作用として「6000万枚」の輸入盤が規制されるっておかしいんじゃないの?
「世界各国に輸入権はありますよ」というけれど……
-
日本は非常にCD価格が高い。
-
その価格を維持しているのが「再販制度」。
-
再販制度とは……定価販売を義務づける制度(CD屋さんが勝手に値引きできない)
-
再販制度を維持しながら(つまり値段を高く設定しておきながら)輸入権まで導入するのは、企業を保護しすぎ。どっちかにしてよ。
-
再販制度を維持するなら、音楽ファンが安い洋盤を購入する権利を守るべきだ。
-
輸入権を導入するのであれば、再販制度を撤廃すべきだ。
-
公正取引委員会も、参議院で「輸入権そのものは法に抵触しないけれど、だったら再販制度を廃止することも考えて」と勧告している!
メジャーは「輸入権を行使しない」といってるけれど……
-
権利があれば行使するのが普通と考えるべし。
-
そもそも、日本版は高いので、その分企業の利益が大きい。
-
輸入盤は定価の3割とか4割でショップが仕入れることもある(ということは経費引くとほとんど利益ないくらい。プロモーションを兼ねている部分もある)
-
当然、価格維持されるのであれば、国内版の方を売りたい。
今回の話は「日本版が出ているもの」だけじゃないの、と思っていたら……
-
関係ないとは言い切れない。
-
タイトルごとにいちいち管理運用していられない。
-
レーベル傘下すべてが一律同じように適用されると考えた方がよい。
-
また、税関でストップをかけられる可能性が非常に高い。
-
香港での実例。
-
香港で輸入権を含む法律ができた。
-
税関は、音楽のことがわからない。
-
だもんで、税関では、何もかも全部輸入ストップ――ということが実際に起きている。
-
確かに税関で「これはOK、あれはダメ」という判断はやってられない。
-
となると、実際には輸入可能なものも一律、税関ではねられる可能性が出てきた。
-
実際、アダルトビデオについては、内容がたとえ国内法に違反していなくても、一律不許可にしているのが現状。
-
この改正が通ってしまえば、CDもアダルトビデオと同じように全部税関で没収されるかも……。
-
ただし、来年1月1日の施行直後にいきなりすべて輸入盤がなくなるというわけではない。
女子十二楽坊でシミュレートしてみる。
※この部分のみ松永による独自の解釈です。シンポの内容から独自に書いたものです。
-
日本原盤「Beautiful Energy」「輝煌」
-
香港版・中国大陸版・シンガポール版・アメリカ版などが出ても、改正の本来の趣旨に従って輸入禁止にできる。ファンは涙。アジア版なら還流を禁止してよい、という意見には賛同しかねる。
-
中国原盤「女子十二楽坊専輯」(VCD/CD+VCDの2タイプ)
-
中国原盤「奇跡 女子十二楽坊現場音楽会」(2CD/2VCD/DVDの3タイプ)
-
プラティアからすでに日本版の「奇跡」が出ているので、この中国版は輸入禁止にできる。もともと日本で制作されたものじゃない「洋盤」なんだけども……(これがこの改正案の「拡大適用」その1)。
-
今後アメリカ進出したら?
-
アメリカ版しか出ない場合、本来は輸入可能。
-
しかし、日本版が出たら、アメリカ版は輸入禁止にできる。
-
ところが……
-
輸入可能な場合であっても、「CDは還流禁止対象の可能性があるのでだめです」と税関で止められる可能性が高くなる(この改正案の「拡大適用」その2)。たとえ個人輸入であっても、それが実は販売用かもしれないし、一枚一枚チェックする手間を税関がかけるのは不可能だから。
-
というわけで、国内版以外はまったく日本国内で入手できなくなる可能性がある。
どうして今、こんな法律を急いで作ろうとしているの?
文化庁は急ぎすぎ
-
去年7月、知的財産推進計画で「輸入権」が取り上げられた。
-
著作権分科会では「慎重に検討すべきだ」という結論(改正していいとは言っていない)。
-
にもかかわらず文化庁は法律案として提出。
-
4月22日、参議院通過。
-
5月下旬、衆議院にて審議。
日米租税条約(新条約)が7月に
-
日本とアメリカの合資会社の場合、アメリカ資本が51%以上なら、日本の会社は「アメリカ企業の現地法人」とみなされる。
-
7月以降、洋楽の日本版(日本でプレスされた洋楽)については、日本において課税されずに済む→外資系企業にとっては極めて有利になる
-
ということは、もともと高利益の日本版を売れば、利益がさらに大きくなる
-
だったら、安い海外盤を輸入しない方が利益が大きくなる(と考えてもおかしくない)。つまり、実質値上げできるわけだから。
昨年末、RIAA/IFPIは「輸入権に大賛成」していた
「
OTO-NETA:RIAAのパブリックコメント訳してみた」参照
-
RIAA=米国レコード工業会
-
IFPI=国際レコード・ビデオ製作者連盟
-
並行輸入を禁止させて独占販売を狙っていると受け取れる
-
文化庁は、このコメントを「参議院通過」の後で出してきた(それまで隠していた)
-
アメリカ音楽業界の動きが背後にある?
それで、どういう問題があるの?
-
日本国内での選択の自由が失われる
-
国内版がCCCDだったとしても、音質のいい海外版を買うことができなくなる
-
日本版を出さずに輸入禁止、つまり「日本で聴けないCD」を作ることも可能
-
高い音楽にカネを出して買うのは一部のファンだけになる→音楽業界全体の弱体化
-
すでにオーディオ機器の世界では起こったこと。一部のコアなユーザーだけがカネを払って高額な機器を買っている。音楽を広めるのとは逆方向。
-
中国、タイでは海賊版対策として「価格を下げる」ことを実施。タイではかなり効果があった。
-
現状でも「並行輸入禁止」の契約をしているところはある。
-
このような対策は、目先の対処であり、長い目で見れば日本の音楽の衰退へとつながる。
-
かつて、日本は洋楽の日本盤をつくり、それで音楽を発展させてきた。それと同じことをアジア各国がやっても、それを目にすることができなくなる。
松永の感想
この動きの背景として、「日本の音楽業界の弱体化」という問題が大きいと思う。CCCDという音質を劣化させる手段まで使ってコピーガードしようとしたり、あるいはこのような「輸入権」+「再販制」という二重の圧力によって売れ行きを確保しようとしたりするのは、方向性が間違っている。
つまり、いい音楽を提供し、買いたくなるようなCDを提供するための努力を怠っておきながら、商売敵をたたきつぶすことにばかり躍起になっている印象を受けるのだ。商売敵とは、この場合、違法コピーや還流CD(+安い海外盤)である。
しかし、その常識を打ち破る例がすでに登場している。女子十二楽坊は、売れないと言われていた日本市場で、しかもインストルメンタル部門で200万枚近い売り上げを記録し、「奇跡」と呼ばれている。しかし、理由のない奇跡は起こらない。これは、演奏の内容やプロモーション方法もさることながら、「CDにさらにDVDまでつけて税込2980円」という価格設定+サービスも大きかった。つまり「質のいいものを安く」提供しているのだから、当然、買いたくなるわけだ。
また、女子十二楽坊ファンの間では、中国人も香港人も台湾人もシンガポール人も、同じバージョンがあれば日本版を欲しがる。理由は一つ。音質など品質が格段にいいからだ。逆に、安いからという理由で女子十二楽坊の海外盤(正規版)に手を出した日本人は、外れたと言ってアマゾンで苦情を言っている(それこそ自業自得だけどな)。
CDが売れないのは、消費者が悪いのでもなければ、安い海外版のせいでもない。それは十二楽坊が、あるいはそれを日本で売り出したプラティア・エンタテインメント社の塔本社長が証明している。
CDが売れないのはほかでもない、音楽ファンを馬鹿にし、ナメて、音質を下げたCCCDだの、妙な法律だのに頼ろうとする音楽業界自身に最大の原因があるのではないか。このようなやり方のどこにも「文化保護」などありえない。「文化商法」の保護でしかないのだ。
おまけ
(今回のシンポで出た裏話)
-
DVDオーディオとSACDの次の規格では、リージョンコードを組み込むことが可能になっている。ただし、このことは公には発表されていない。
-
新しいMP3の規格には、ダウンロード情報を追跡できるコードが組み込まれている。
-
次のバージョンのWindowsでは、OSにこの追跡システムが組み込まれることになっている。全世界の各国語版、ワード、エクセルにも。コピーされた場合、簡単に追跡できるようになる。
他の方によるレポートなど
関連サイト
フラッシュ作りました。これについてはCD輸入制限はおかしいんじゃない?というFLASH作りましたを参照してください。★Ver2になりました!
【関連記事】